――弱いのは悪だからだ。
ガキの頃、どこかで聞いたセリフだった。
苦しい生活も、いなくなった父も、「強さ」とやらが足りないせいで、悪にされた。
――弱いのは、いやだ。
彼は強くなった。
世界レベルの強さを手に入れた。
でも、そんな彼はMARNに誘拐された。あっさりと、あっけないほど、反抗できないまま。
【MARNは正しい】
洗脳された意識に残るのはこれだった。
――弱いのは悪だからだ。
妙に納得した。
自分は弱いから、こうなった。
相手が強いから、そうやった。
故に、彼は受け入れた。受け入れるしかなかった。
名前を捨て、戦闘体となり、アリステラと名乗る彼は更に強さを求めた。
――弱いのは悪だからだ。
ライバル
多くの同胞を屠ったって構いやしない。
血を染めたってどうでもいい。
ただ強さが欲しい。満足できるぐらいの強さが欲しい。
強化型に並ぶと言われる今でも、強さへの強欲はでかくなる一方だった。
――弱いのは、いやだ。
だから自ら申し込んだ。ネメシスを斃す任務を。
再改造の権利を、更なる強さを手に入れるために。
そして今。
「グッ!!!」
アリステラは圧倒されている。
ジャスティスと名乗る仮面ライダーに。
* * * * * * * * *
手慣れた動き。
スマートな連撃。
磨きのかかった格闘技術。
アリステラは為すすべもなく、ジャスティスの攻撃を喰らい続ける。
既に亀裂が走っていた装甲が耐えきれないほど、相手は強い。
――弱いのは悪だからだ。
――弱いのは、いやだ。
(うるせぇ!)
脳に走るノイズを無視しつつ、アリステラは腕を振りかざす。
アリステラハンド。
どんな敵でも一撃で葬った、最強の武器。
それでも。
ジャスティスの蹴りは内側から切り込み、アリステラハンドを弾き、いなした。
踏み込まれた。
叩き込まれた。
のけぞらされた。
一秒にも満たぬ瞬間に、アリステラは何発ものワンインチパンチを喰らい、そのままミドルキックでぶっ飛ばされた。
(なにぃ――!?)
信じられなかった。
パワーも、スピードも、テクニックも、相手のほうが上だった。
信じられないほど、自分の方が弱かった。
――弱いのは悪だからだ。
(ざけんな……!)
――弱いのは悪ならば、自分は?
――今までやったことは、悪になるのか?
(ざけんじゃねぇ!)
――悪だけは、いやだ。
――弱いのは、いやだ。
「負けるくらいなら――」
死んだ方がマシだ。
そう思い、アリステラは全パワーを集中し始めた。
そして――
正義の風が、戦場を吹き荒らした。
* * * * * * * * *
ライダーキック。
捕らえられない疾風だった。
防御も、回避も、迎撃も赦さぬ飛び蹴りが、正しき強さがアリステラを貫いた。
誇る強さが、役に立たなかった。
(なぜだ……!?)
――自分は正しかったはずだ。
――強かった自分は、悪くないはずだ。
(なぜ、俺が……!?)
――もしかして、仲間を手に掛けた自分が。
――もしかして、MARNに屈した自分が。
――もしかして、強さを間違えた自分が。
「MARNに清浄なる世界をーーー!!!」
設定された言葉が、爆発とともに響き渡る。
大事な疑問を解けないまま、アリステラの物語はここで終わりを告げた。
(おわり)