3 特撮復興だよやる夫くん 二次創作「強さ、正しさ」 | 日本語シリーズ

――弱いのは悪だからだ。

ガキの頃、どこかで聞いたセリフだった。
苦しい生活も、いなくなった父も、「強さ」とやらが足りないせいで、悪にされた。

――弱いのは、いやだ。

彼は強くなった。
世界レベルの強さを手に入れた。

でも、そんな彼はMARNに誘拐された。あっさりと、あっけないほど、反抗できないまま。

【MARNは正しい】

洗脳された意識に残るのはこれだった。

――弱いのは悪だからだ。

妙に納得した。
自分は弱いから、こうなった。
相手が強いから、そうやった。

故に、彼は受け入れた。受け入れるしかなかった。

名前を捨て、戦闘体となり、アリステラと名乗る彼は更に強さを求めた。

――弱いのは悪だからだ。

   ライバル
多くの同胞を屠ったって構いやしない。
血を染めたってどうでもいい。

ただ強さが欲しい。満足できるぐらいの強さが欲しい。
強化型に並ぶと言われる今でも、強さへの強欲はでかくなる一方だった。

――弱いのは、いやだ。

だから自ら申し込んだ。ネメシスを斃す任務を。
再改造の権利を、更なる強さを手に入れるために。

そして今。

「グッ!!!」

アリステラは圧倒されている。
ジャスティスと名乗る仮面ライダーに。

*  *  *  *  *  *  *  *  *

手慣れた動き。
スマートな連撃。
磨きのかかった格闘技術。

アリステラは為すすべもなく、ジャスティスの攻撃を喰らい続ける。
既に亀裂が走っていた装甲が耐えきれないほど、相手は強い。

――弱いのは悪だからだ。
――弱いのは、いやだ。

(うるせぇ!)

脳に走るノイズを無視しつつ、アリステラは腕を振りかざす。

アリステラハンド。
どんな敵でも一撃で葬った、最強の武器。

それでも。

ジャスティスの蹴りは内側から切り込み、アリステラハンドを弾き、いなした。

踏み込まれた。
叩き込まれた。
のけぞらされた。

一秒にも満たぬ瞬間に、アリステラは何発ものワンインチパンチを喰らい、そのままミドルキックでぶっ飛ばされた。

(なにぃ――!?)

信じられなかった。

パワーも、スピードも、テクニックも、相手のほうが上だった。
信じられないほど、自分の方が弱かった。

――弱いのは悪だからだ。

(ざけんな……!)

――弱いのは悪ならば、自分は?
――今までやったことは、悪になるのか?

(ざけんじゃねぇ!)

――悪だけは、いやだ。
――弱いのは、いやだ。

「負けるくらいなら――」

死んだ方がマシだ。

そう思い、アリステラは全パワーを集中し始めた。
そして――

正義の風が、戦場を吹き荒らした。

*  *  *  *  *  *  *  *  *

ライダーキック。

捕らえられない疾風だった。
防御も、回避も、迎撃も赦さぬ飛び蹴りが、正しき強さがアリステラを貫いた。

誇る強さが、役に立たなかった。

(なぜだ……!?)

――自分は正しかったはずだ。
――強かった自分は、悪くないはずだ。

(なぜ、俺が……!?)

――もしかして、仲間を手に掛けた自分が。
――もしかして、MARNに屈した自分が。
――もしかして、強さを間違えた自分が。

「MARNに清浄なる世界をーーー!!!」

設定された言葉が、爆発とともに響き渡る。
大事な疑問を解けないまま、アリステラの物語はここで終わりを告げた。

(おわり)