※ この作品には以下の要素が含まれています ※
※ オリジナル設定(怪人、展開など) ※
※ ガバガバくそ下手日本語 ※
※ ご理解の上で見てください ※
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第■■話
ーカハタレー
第 1 節
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――夢。
夢とは、願望である。
それは感覚を伴い、ありもしない偽りの体験。
――悪夢。
悪夢とは、幻覚である。
それは過去に取り付き、痛みを生む幻の傷跡。
――夜明け前。
それは空が一番暗い刻である。
それは夢が覚めてしまいそうな一瞬である。
そしてそれは悪夢が一番濃く、深く、暗く、大きく顕現する時間である。
* * * * * * * * * * * * * *
――世界が揺れた。
目が覚めてから、全ては変だった。
【違和感がある】とか、そういうレベルの話などではない。
(……うん?)
空気が。
感覚が。
周りが。
至るもの全てが。
何もかも変わってしまったとしか感じなかった。
(なんだ、これは……)
見慣れた天井なのに。
何年も住んでいた部屋なのに。
でも、違う。
頭のどこかで【違う】と言っている。
慣れたにおいがないし、見慣れた人影もいない。印象と現実がずれてるとしか思えないぐらいおかしい。
――確かめなくては。
家のいかなるところを探し回った。
キッチン、トイレ、リビングルーム、ベランダ、クローゼット……おかしいモノなんでない。ない、が、違う。
感覚しかないが、ナニカが違う。
(なんか……おかしくないか?)
自分の家なのに、釈然としない。
落ち着かないし、何かが、空気がヘンだ。
――確かめなくては。
顔を洗わず、適当に服を着替え、外に出た。違和感の元を探しに。
そして。
予感は当たった。悪い方に。
(こ、れは……!?)
寒気が止まらない。
震えが止まらない。
脳が軋みが生じ、痛む。
何せ、ありえないモノを見てしまったからだ。
馬晏建築。
真安病院。
八百屋【摩庵】。
真庵銀行。
ホテル【Mーアン】。
間鞍駅。
コンビニ【マR】。
磨鞍塾。
馬暗商事。
食事処【馬杏】。
デパート【エムエーアルエヌ】。
――世界が揺れた。
――いや、世界が歪んでいた。
(なんなんだ、これ……!?)
記憶にないそれらは実感がなく、まるで歪んだ洋画のようだった。
というより、今見える全てが無理矢理張り付けたモノににしか見えなかった。
大通りでも、横丁でも、路地裏でも、似たような名前だらけ。
漢字は違えども、同じ発音で、同じ大本に違いない。本能的に、そう感じ取った。
が、それだけではなかった。
――名前だけじゃ、そこまで驚いてなかった。
――寒気が沸き上がったのは、【アレ】を見たからだ。
(なんだ……なんなんだ、アレは……!?)
視線が表通りの向こうに。
そこには通行人しかいない、が、通行人そのものが歪みの根源だ。
一人の女性と二人の男性が歩いている。女性は前で、男たちは後ろについている。
否。
【ついている】などではない。
【引っ張られてる】んだ。
(あれは、ワイヤー…?いや、違う、アレは…チェーン!?)
細い鎖が男女の間に渡り、両方を繋ぐ。が、それは一方的にでしかない。
煌くチェーンが女性の掌に転がるグリップと、男性たちの首にあるチョーカーに繋がっている。
明らかに長さが足りないソレが女性に引っ張られると、男性たちは悲鳴をあげながら歩みを早めた。
そして、一番恐怖を感じさせたのはこの異常ではない。
――周りが、全部、同じだった。
ざっと見ると数百人以上。
男がいたところ、必ず女が前にいる。
中学生、アラフォーの婦人、着物を着た女性。
みんなみんな、鎖付きグリップで後ろの男を引っ張って、歩いている。
スーツ姿の男、短パン少年、杖を持つ老人でさえも、まるでペットのように扱われていた。
(どうなってるんだ……!)
――吐き気がした。
――気絶しそうになった。
気分が悪くなるとか、そんなチンケなものじゃない。
全てが歪んでいる。
全てがありえない。
ここは、男は家畜にされる世界だ。
MARN
ここは、極悪非道な何かに支配された世界だ。
――これこそが、とてつもない違和感の正体だった。
(ありえない、こんなの……いったい…!)
目にしたモノを信じられなかった。
こんなのあってはならない。あっていい訳がない。
止めないと。
そうだ。自分はこれまで――
(……!?)
――世界が揺れた。
崩れ落ちる感覚が突然湧き上がる。
思わず壁にもたれかかり、息を切らして吐き気と眩暈を抑える。
息を整えたら、気づく。
(これまで――なにを?)
これまで【なに】をしていたか。
【なぜ】この環境はあってはならないと思ったのか。
そもそも自分は【どうやって】――どうやって、なにをするのだ?
疑問の先には、なにもない。
まるでページが取れてしまった本みたいに。
(覚えない……思い、出せない……!)
大事なナニカが、欠けた。
自分であり続ける大切なナニカが、ごっそりなくなった気がした。
「――クビワが――――」
「――――所属――」
「――野生――――――オトコ――」
「カイヌシ――――なにを――」
視線を感じる。
周りが騒ぎ始めている。
だがそんなところじゃない。
窓面から、目を離れることができなかった。
そこに映る顔は、記憶になかった。
「オレは……俺は……」
「俺は、誰なんだ……!」
彼は――名前を失くした男は、混乱していた。
(つづく)